東京地方裁判所の場合は、債権者の支払い不能状態をより詳細に把握するため、自己破産申立ての際に債務者本人の陳述書を提出させることにしています。この陳述書の書類は、裁判所から申立てをする債務者に渡されます。東京地方裁判所の場合、所定の書式があり破産手続き開始の申立書と陳述書に次のような事項を記載させています。
①申立人の本籍、住民票上の住所、現在の住所
②申立ての趣旨および理由
③申立て債務者の経歴など(最終学歴、主な職種または事業内容)
④家族の状況(家族構成、職業または就学状況など)
⑤資産および負債の状況(資産総額、負債総額、内容)
⑥訴訟などを提起されていることの有無、内容
⑦債権者との話し合いの内容、いきさつ
⑧破産申立てに至ったいきさつ
⑨破産申立てのために用意した費用および資金源
⑩申立債務者の現状の生活状況(収支など)および今後の生計についての見通し
⑪申立債務者が過去に免責許可決定を受けたことの有無
書面で自己破産を申し立てるには、以上のような書類が必要です。尚、自分で自己破産の申立てをすることもできますが、弁護士に頼めば手続きはスムーズに運びます。
東京地方裁判所は自己破産申立件数が極めて多い
東京地方裁判所は、人口が多い分だけ自己破産申立件数が多く、手続きの簡素化が出来る部分は徹底した合理性を追求しています。弁護士事務所の数も極めて多い東京地方裁判所の管轄内で自己破産申立を行う件数が多くなる理由の1つとして、近隣県在住者が東京都内の弁護士に委任するために管轄外の東京地方裁判所で申し立てを行うといった事情があるわけです。住所地以外での自己破産申立を抑制する方向で弁護士に対して調整しているものの、依頼者の希望もあるためより効果的な抑制方法として本人記載による陳述書の提出が有効となっています。
自己破産依頼者本人にとって、地元の裁判所にて自己破産申し立てを行えば、陳述書提出が必要ないならば弁護士の日当と交通費を出してでも楽な方法に流れるでしょう。弁護士都合による東京地方裁判所申し立ては防げないものの、情報社会において東京地方裁判所申立時には本人記載の陳述書を添付しなければならないことを知れば、住所地での自己破産申し立てを希望する人が出てきます。
本人記載の陳述書により詳しい事情を債権者にも伝える役割がある
自己破産申し立て時に陳述書を提出することは、弁護士が用意した申立書類とは異なり本人にしか知りえない事情が詳しく書かれている書類が用意されるという意味があります。弁護士が全ての書類を用意すると、どのような経緯で自己破産に至ったかという申し立て内容を知ること無く手続きが行われてしまいがちです。大規模な弁護士法人ほど実際の申立書類を事務員が作成していることが多いので、あくまでも弁護士事務所内部でチェックされるだけで裁判所へ申し立てられてしまうことが少なくありません。
債権者は自己破産後に行われる破産免責決定により多大な損害を被るので、少なくとも本人記載の陳述書から時系列に沿った事情を知る権利があります。弁護士によるチェックが行われるものの、弁護士とは異なる陳述書の文面から本人がしっかり記載したものかどうか裁判官ならば容易に確認可能です。自己破産申し立てが弁護士による単独の申し立てとならないようにすることと、自己破産に至るまでの経緯を冷静に本人が見つめ直すキッカケとなることを目指しています。
弁護士が用意した申立書類との違いが無いか裁判所によるチェックが入る
東京地方裁判所での自己破産申し立てに際して、本人の陳述書を提出させることは弁護士が用意した書面と矛盾点が無いか確認する意味合いがあります。なぜなら、住所地が異なる地方在住者が、住民票を置いている管轄裁判所以外で自己破産申し立てを行う数を抑制する狙いがあるからです。裁判官から見た時に、弁護士が用意した自己破産申立書類の内容が、申し立て本人との綿密なコミュニケーションを取った上で作成されたものか判断する材料となります。
同時廃止事件と少額管財事件のどちらにするか決めることは、東京地方裁判所の場合には即日面談により最短当日中に決められますが、破産免責決定を出すかどうかは別問題となります。陳述書の提出は、破産免責決定を受ける際に特に重要な判断材料となるものであって、他の裁判所では裁判官が本人に審尋を行う過程を集団免責審尋により事実上簡略化することに成功しているわけです。膨大な数の自己破産申立を処理しつつ、東京地方裁判所だけに自己破産申立が集中しすぎない抑止効果を期待する方法として陳述書が使われています。
裁判官による裁量免責を与える理由付けとしやすい
東京地方裁判所において自己破産申し立てを行うと、個人の破産申し立てに対しては同時廃止事件または少額管財事件のどちらかで行われることが大半です。中にはギャンブルや浪費といった免責不許可事由に該当する借金理由であっても、他の債務整理方法での解決が難しいために裁判官による裁量免責狙いで自己破産を行うケースが少なくありません。裁量免責を行う際には、破産同時廃止事件に該当する場合であっても少額管財事件として経過観察を行う必要がありますが、中には裁量免責により同時廃止事件として処理される事例もあります。
自己破産申立書類と合わせて本人記載による陳述書を提出されていれば、裁判官による裁量免責を与える理由付けとして機能しやすい面があるでしょう。本人が自分の言葉で記載内容はある程度決まっていても陳述書を作成するので、どれ1つとして同じ陳述書はありません。本人の困窮度合いと生活再建に向けた取り組みを裁判官へ陳述書という形で申し立てることが出来れば、裁判官による裁量免責を引き出す効果を期待出来ます。