債権者にとっては、法的整理をされてしまうと債権回収額が目減りしてしまうので損です。ただでさえ法的整理を行われたら債権者にとってダメージが大きいにも関わらず、債務者が得をしてしまう事態になれば納得出来ないでしょう。清算価値補償の原則は、債権者を保護するための規定でもあるわけです。
清算価値保障の原則とは?
清算価値補償の原則は、民事再生法第172条2項4号「裁判所は、次の各号のいずれかに該当する場合には、再生計画不認可の決定をする。四 再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき。」という条文を根拠にしています。個人再生による再生計画は、債務者が持つ清算価値以上の返済を約束することを保障する清算価値保障の原則が適用されます。
自己破産申し立てを行った際には、破産管財人により清算価値がある全ての財産が換価されて債権者へ公平に分配されます。全ての資産が没収されて換価される自己破産よりも、資産没収無しに再生計画を進められる個人再生の方が、債権者へ分配される金額が少ないと債権者へ著しく不利です。このため、財産の没収はされない代わりに、個人再生手続きでは自己破産を行った時の弁済額を下回らないように、手持ちの資産以上の返済を行うことを定めたものです。
清算価値保障の原則は少額管財事件の配当金との比較で守られる
個人再生手続きを行うと、住宅資金特別条項を適用させた場合であっても、無担保債権が圧縮されて再生計画が作られます。清算価値保障の原則は、持ち家の資産価値には適用されないものの、他の資産は対象となるので、車を保有している場合には返済額が増える仕組みです。自己破産申し立てを行った際には、20万円以上の資産は全て没収され、競売により換金されて公平に債権者へ分配されます。
少額管財事件の配当金と同額以上の配当が受け取れるなら、債権者は自己破産と個人再生どちらであっても配当金が大きい方を期待します。個人再生を行うことで、資産を保有したまま法的整理が出来るメリットが大きいからこそ、個人再生を行う際には手持ちの資産額と最低弁済金額に加えて自己破産を行った時の配当金額まで比較して最も多い額を再生計画に組み込むわけです。債権者にとっては配当金額が全てですから、少なくとも自己破産で少額管財事件となった場合と同等以上の弁済が保障されれば、小規模個人再生の債権者決議が通りやすくなります。
清算価値保障の原則は給与所得者等再生ではほとんど問題にならない
清算価値保障の原則は、大抵が小規模個人再生を適用させる場合にチェックが必要な項目となります。自己破産を選択する際には、同時廃止事件となる場合なら間違いなく小規模個人再生でも清算価値保障の原則が守られるでしょう。問題となりやすいのは、少額管財事件となる場合と考えられます。
資産を保有する状況下で自己破産を行うと、少額管財事件として20万円以上の資産価値を持つ財産が全て破産管財人により換金されて債権者へ公平に分配されるわけです。給与所得者等再生手続では、手持ちの資産価値を下回ることが殆ど無いだけでなく、可処分所得の2年分という小規模個人再生よりも多い返済額を再生計画案として計上するので、清算価値保障の原則が確実に守られることになります。債権者決議を必要としないほど再生計画で分割払いとなる金額が大きいので、債務者にとって負担が大きな制度となります。