自己破産を弁護士や司法書士に依頼する際に、確認しておきたい、または弁護士に説明を受けなければならない事項を以下にまとめてみました。これらは自己破産で押さえておきたい重要なポイントです。
なぜなら、弁護士に自己破産申し立てを依頼して債権者へ受任通知を発送した後も、債権者は何とかして債権回収を行おうとあらゆる手段を講じて攻めてくる可能性があるからです。その都度弁護士へ確認しながら対応することが出来るものの、土日祝日には弁護士へ相談出来ないので基本的な自己破産申し立て時の知識を蓄えておくと対応しやすくなります。
①破産手続きの概要
個人が行う自己破産の多くが同時廃止事案のケースであり、依頼者に対して聴取した事情を踏まえ、破産という手続選択が妥当か、破産手続きを選択するとして同時廃止事案であるか、同時廃止事案として免責不許可の可能性を検討した上で手続全体の見通しについての説明を受けておく必要があります。弁護士から確認される事項として、20万円以上の資産価値があるものがあると、自己破産手続きが同時廃止事件ではなく破産管財事件という手間とお金が掛かる手続きとなってしまいます。弁護士から同時廃止事件で処理可能な内容か、事前にチェックを受けておくことが重要です。
②破産・免責の意義・効果
破産手続きは債務者が支払不能・債務超過に陥った場合に全ての財産を債権者に対して公平に配当するための手続きです。一方、免責手続きは破産手続きによって配当がなされなかった債務につき債務者の責任を免除する制度です。したがって、破産手続・免責手続は相互に密接に関連するものであり、両手続きの完遂により債務者の経済的更正をもたらす効果があります。しかし、両手続は現行破産法上は別個独立の手続であり、免責確定までは債務者は債務から解放されたわけではありません。受任通知により弁護士を通さない債務者に対する直接取り立てが禁止されますが、取立てが止んでも
・取り立てが止んでいるのは一時的なものであること
・破産宣告があっても免責決定を受けるまでは借金返済義務があること
・最終的に債務から解放されるのは免責確定時であること
③破産した場合のデメリット
現実としてデメリットといえるのは、給料差押えにより勤務先に支払不能の事実が発覚する可能性があること、クレジットの利用が不可能になること、一定の資格に復権するまでは就けなくなることなどです。自己破産自体のデメリットではありませんが、債務者が免責されても保証人が免責されたわけではなく、保証人は依然として債務を負担することも理解しておきましょう。自己破産を行った際に、保証人がいる場合には免責決定を受けた債務のうち保証人が負担する借金がそのまま保証人宛に請求が行きます。結果的に迷惑を掛けることになるので、事前に保証人に対して自己破産を行う予定である旨を伝えておく必要があり、場合により同時に自己破産を申請しなければならないかもしれません。
④住宅の取り扱いについて
債務者が借家住まいの場合に、賃貸借契約を解除されることは、家賃滞納のケースを除いてほとんどみられません。また債務者の住宅が持ち家の場合の取り扱いについては、破産宣告の後、破産管財人が住宅を処分する場合、明け渡さなければならなくなるのは数ヶ月後になります。現在滞納中の家賃については、自己破産準備期間中に滞納状態を改善出来る場合については、弁護士に相談の上で生活に必要な債務として偏頗弁済扱いにならない優先弁済を行えます。偏頗弁済とならないようにする基準は、弁護士に聞けば分かるので現在家賃滞納ぎみの場合には、しっかり相談しなければなりません。
⑤予想される手続き期間
破産・免責手続終了までの日程について確認しておきましょう。大まかな手続期間としては、同時廃止事件において申立てから破産宣告までが通常1~2ヶ月(東京地方裁判所は即日面接)、破産宣告から免責審尋までが2~4ヶ月、免責審尋後の異議申立期間が約1ヶ月、免責異議期間経過後の免責決定までは数日、免責決定から公告までの間が約2ヶ月、公告から2週間で免責確定というのが一般的です。破産管財事件となった場合には、破産管財人が経過観察を行い処分可能な財産を順次処分することになるので、破産宣告から免責決定までは1年以上かかることも珍しくありません。
⑥免責不許可の可能性
免責不許可事由が存在するのかどうか、また免責不許可の可能性および任意配当の可能性について確認しましょう。同時に今後新たに借入行為をすると免責の判断に影響を及ぼすことも注意すべきです。しかし現行の破産実務においては、免責不許可事由がある場合でも、裁量免責により多くの債務者が救済されています。また、破産宣告を受けることによって多くの債権者が取立てを中止する可能性があります。したがって、免責不許可事由がある場合であっても、多くの場合破産申立てをすべきです。免責不許可事由に該当すると考えられる借金理由であっても、弁護士に破産免責決定が受けられなかった場合の対処方法を聞いておくことで、慌ててしまわずに済みます。
⑦任意配当または小額管財の可能性
任意配当とは、裁判所からの勧告によって破産者の新得財産から一定期間、一定額を任意に積立て、全債権者に配分する任意の配当手続きをいいます。かつては一部の裁判所で行われていた方法ですが、東京地方裁判所の即日面談のように、申し立てから破産開始決定まで即日で行える裁判所が増えてからは、元々の公平性担保が不十分だったために行われなくなって来ています。愛知県や静岡県では、従来任意配当を自己破産申し立てから破産開始決定までの期間に任意で債権者に行うことで、少額管財事件となる案件を同時廃止事件として処理していたことがあります。近年は、少額管財事件として処理することにより、任意配当を行うこは無くなっています。
⑧手続費用
最低限必要な費用としては実費として破産申立書貼用用紙(600円)、予納郵便(1万円程度、債権者数による)、破産予納金(2万円程度)、免責申立書貼用用紙(300円)が必要となります。これに弁護士報酬や司法書士の場合は書類作成報酬が加わることになります。
⑨裁判所に出頭する回数・時期
申立裁判所の運用を踏まえ出頭回数(1~2回)と、呼び出しの大まかな時期を確認しましょう。また裁判所から呼び出し状がきたら弁護士にも伝えるようにしましょう。弁護士に依頼した場合には、最小で裁判所への出頭は破産免責審尋のために集団審尋方式により1回行われるだけで済むことがあります。司法書士へ依頼すると、司法書士は弁護士とは異なり地方裁判所への代理権を持たないので、あくまでも本人申し立てという形式になります。本人申し立てでは、最大3回出頭しなければならないので、平日に休みを3日取れるだけの時間的余裕を持たなければなりません。
⑩破産による資格制限
破産者に対してさまざまな資格制限があります。例えば、弁護士や司法書士、税理士などの資格を失うことになったり、会社の役員の資格を失うこともあります。また、保険外交員や証券外交員など、他人の財産を預かり、または管理する業務を一定の資格の下に行っている場合は破産によってその業務を禁止される場合があります。ただし、免責決定と同時に復権するため、こうした資格制限が解除されることになります。破産同時廃止の場合には、免責決定が出るまでの期間が短いために影響は最小限となりますが、破産管財事件となった場合には、半年から1年以上も免責決定が出るまでに期間を要するために、生活基盤を整えることが急務となりがちです。
⑪破産手続き中の法的請求
破産申立て後においても免責決定までの間は債権者が支払い督促や貸金返還請求訴訟を提起することもあります。近年は債権者が確定判決等の債務名義を取得したり、あらかじめ作成しておいた公正証書に基づいて。債務者の給料債権を差し押さえるケースが少なくないです。こうした債権者からの法的請求に対して債務者が取るべき態度としては放置、和解、応訴の3パターンが考えられます。債務者が現在無職無収入で取るべき財産が無いのであれば放置しても問題はありません。ただし一部業者は動産執行を申し出てくることもありますので、訴訟を提起され財産がある場合には弁護士に確認しておきましょう。
⑫ヤミ金への対応
債務者の中にはヤミ金から借入れをしている場合があります。ヤミ金融業者は、破産者を狙ってダイレクトメールを送りつけてくるため、決して借入れることがないように十分注意しましょう。ヤミ金からの借入有無は、自己破産の免責不許可事由に当てはまってしまうので、正直に弁護士へ打ち明けておく必要があります。ヤミ金からの借入については、弁護士を通すことで最初から違法な貸付として返済義務が無いことをヤミ金業者に対して納得させなければなりません。
⑬クレジットや各種公共料金の引落口座を変更しておく
債務者が給与所得者で給料が銀行振込されている場合は、振込先の金融機関に対してカードローン等の負債を負っていないか確認し、もしこれが存する場合には、破産宣告申立て以後の給料は現金給付とするか他の金融機関への振込扱いに変更する必要があります。他にも口座から自動引き落としになっているクレジット代金がある場合には、引き落とし中止の手続きをとるか、預金残高をゼロにする必要があります。
各種支払に際して口座引落を行っている場合には、銀行は依頼に基づき債権者から指定された金額を自動引き落としする処理を行うだけであって、定額引き落としを行うわけではありません。銀行自動払込利用申込書は、依頼があった任意の引落額を徴収出来る仕組みであって、自己破産準備に入る時点で銀行自動払込利用解除の申し入れを銀行に行うか、給与振込口座そのものを変更する必要があります。債権者により生活基盤となる給与を勝手に引き出されないように注意しなければなりません。