債務整理依頼者の中には、弁護士報酬分割払いの約束をしているにもかかわらず、着手金の支払いを滞らせて中には一度も支払わない者もいます。このような依頼者が多いことが債務整理を取り扱う法律事務所の中に一括払いしか受け付けない所がある理由でもあります。着手金の不払いは、依頼者側の債務不履行であり、辞任事由となるのが一般的ですが事件の特性を考慮することが大切です。
弁護士は分割金の不払いに対して慣れている
確かに、分割金を支払わない依頼者の多くは、誠実さに欠けていると見られる人物であることも多いです。しかし、プロの金融業者の取り立てに対しても、支払いを滞らせる多重債務者が、事件を依頼した弁護士への着手金その他の費用・報酬の支払いを滞らせるのはむしろ当然のことともいえます。
分割金を滞らせている依頼者にも、親族の急病で出費がかさんだ等の個別事情がある場合もあります。そのような事情も含め今後の事件処理を組み立てる必要もあります。 故に、着手金を不払いにしている依頼者から個別の事情を聴取するようにし、分割金滞納を解消する方法を探っていくべきです。
ある弁護士は、依頼人に家計簿をつけるように指導し、月一回事務所にて面談指導する日を入れて、その当日つけている家計簿と分割金を持参するようにしているということです。これにより、分割金が払えなくなっている個別の事情の取り組みも可能になります。
一括払いしか認めない弁護士事務所は法テラスを利用すれば依頼出来るかも
なお、資力要件を満たす依頼者には、事件受任の当初の段階で法テラスによる法律扶助制度の利用を検討することも一つのやり方です。弁護士人数が急速に増えた影響により、弁護士の中には仕事が無くて本来は得意ではない債務整理を受任していることすらあります。債務整理の受任は、既に借金問題をこじらせている債務者を相手にするので、少なくとも着手金については一括払い出来る状態の依頼者しか受けたくないという弁護士が少なくありません。
法テラスによる法律扶助制度を利用すると、債務整理方法により一律の料金体系とはなりますが、事件の難易度に応じて法テラスが間に入って報酬の適正さについて審査してくれます。債務整理が望ましいという結論に至れば、審査の上で法テラスから弁護士に対して報酬が一括払いされるので、分割払いは法テラスに対して依頼者が行うだけで良くなります。たとえ分割払いの不払いが発生しても、弁護士側で対処する必要が無くなるので、安心して債務整理を受任出来るわけです。依頼者にとっても弁護士費用が高いという考え方を持たずに依頼出来るので、返済能力を考慮した上で法テラスに対する弁済を随時行うだけで済みます。法テラスの利用は、依頼者にとっては債務整理の費用を適正な範囲にしつつ分割払いが出来るメリットがあり、弁護士の側からは報酬を一括払いしてもらえるから不払いの不安が解消されるわけです。
なぜ弁護士報酬の分割払い金は成功報酬分まで先に支払うのか
債務整理案件を受任する弁護士にとって、債務整理方法により受任した費用を全額支払ってもらえるか最後まで不安なものです。分割払いに応じた場合であっても、着手金と成功報酬全額の支払いが終わるまでは、実際に個人再生や自己破産申し立てをしないことが珍しくありません。なぜなら、一度手続きを始めてしまうと途中で辞任しても最後まで手続きが進んでしまい成功報酬を受け取れなくなる可能性が高いからです。法テラスを間に挟んで報酬一括払いを行う方法がありますが、法テラスを経由した場合には報酬額が内容に応じて一律となるので、必ずしも利益が大きくはなりません。そこで、債務整理に自信がある弁護士ほど自力で着手金と成功報酬の金額を利益が十分に出る額まで引き上げて分割払いとしているわけです。
個人再生手続きに関しては、弁護士報酬として着手金・報奨金と再生委員報酬に必要な予納金まで含めた分割払い金を支払う必要があります。分割払い金の支払い状況が良好ならば、再生計画案通りに返済が進んでも問題なく出来るように、最初から再生計画案で返済予定の金額と毎月の分割払い金を合わせているケースが少なくありません。自己破産ならば、事前に同時廃止事件か少額管財事件か借金内容から判断出来ます。
債務調査段階で過払い金があると判明すれば弁護士報酬に充てられる
債務整理を依頼する人の中には、かつてグレーゾーン金利が多かった頃からの借入がある人も少なくありません。債務調査を行う過程で全取引履歴を開示請求してみると、実際に多数の取引履歴が見つかることがあります。金利引き直し計算を行った結果として、多額の過払い金が発生する場合には、過払い金請求報酬を除いた残りを弁護士報酬に充てることが可能です。中には数十万円の過払い金を含む債務整理を依頼する人がいるので、弁護士にとっては早期に弁護士報酬を得られて確実に入金されるからこそ、安心して債務整理を受任出来ます。
残念ながら過払い金請求を行った結果として、弁護士報酬は優先的に充当出来るものの、自己破産や個人再生手続きを行う場合には、手元に過払い金が戻ることはありません。あくまでも弁護士費用へ優先的に充当可能というメリットがある程度です。
弁護士報酬を分割払いにしていながら支払いを滞らせると、依頼者の側とすれば弁護士に相談しづらいですが、放置せずに逐一報告を入れることが大切です。過払い金が既に見つかっていて、不当利得返還請求訴訟提起が出来るなら、弁護士報酬を過払い金から支払い手持ちの持ち出しをほとんど無くすことも出来るからです。支払いが厳しくなっても放置せずに、速やかに弁護士に連絡し、解決の方法を相談することをオススメします。