多重債務の依頼者は、弁護士に対して散財の全容につき秘匿したがるものですが、依頼者に対し有利不利を問わず全て打ち明けてほしい旨を説得してもなお、弁護士に虚偽の事実を告げ、あるいは必要な事実を告げない場合があります。このような場合、最後には信頼関係を維持できないとして辞任に至ります。
弁護士が業務を全う出来なくなるリスクがあるから辞任する
具体例としては、債権者(借入先)を過小に申告する場合が多く見られます。しかし、債務者は法的知識については素人ですから、法的に借り入れであるのに、その認識を持っていないこともあり、クレジットカードによる物品購入や親族・友人からの借入を 散財として認識していない場合等があります。このような場合は、依頼者からの聴取の中で散財になっている旨の説明を弁護士から受けることで解決します。
債務整理には、任意整理・個人再生・自己破産という主に3つの中から依頼者の状況に合わせて手法を選択します。依頼者からの虚偽申告があると、債務整理方法を見誤ってしまう原因となるので、結果的に損をするのは依頼者本人です。弁護士にとっても自らの実績に傷がつくだけでなく、着手金しか受け取れない事態となりかねません。最初から着手金と成功報酬分を集金しておき、弁護士の懐に入れてしまう悪徳弁護士もいますが、大半は契約として真剣に取り組んでくれる弁護しが多いです。弁護士本来の力量を発揮するためにも、弁護士には守秘義務があるからこそ安心して真実を話して問題ありません。
では、依頼者からの虚偽申告に対しては、弁護士はどのような対処を行っているのでしょうか。虚偽申告を行った結果よりも、虚偽申告に至る過程を追求しなければ必ずしも依頼者ばかりが悪いとは限りません。時には弁護士側に責任があることも出てくるわけです。
意図的な虚偽申告は破産免責不許可事由となりやすい
ヤミ金のような高利貸し、あるいは保証人、親族、恩人を意図的に除外して債権者と弁護士に申告する例もあります。このような場合、そのような部分的処理は、依頼者自身の多重債務の根治を阻害する要因となりますので、弁護士には全ての情報を開示するようにしましょう。
実際にヤミ金からの借入があると分かっていれば、自己破産申し立て前にヤミ金対策を先に行った上で、自己破産申し立てに臨むことが可能です。ヤミ金からの借入を黙ったままでいられてしまうと、自己破産申立後に発覚した時には、破産免責不許可事由に該当してしまうので破産免責決定を受けられない可能性があります。
破産法第252条1項2号には、「破産手続の開始を遅延させる目的で,著しく不利益な条件で債務を負担し,又は信用取引により商品を買い入れてこれを著しく不利益な条件で処分したこと。」という項目があり、クレジットカードを現金化したりヤミ金からの借入を行った場合が該当します。最初からヤミ金からの借入が債務調査時に見つかったので、こういった対処方法で処理したために自己破産申立が受任後に遅れていたと裁判所へ申告可能です。裁量免責による破産免責決定を受けやすくするために、弁護士はヤミ金対策をしっかり行います。
どうしても保証人に対して迷惑を掛けたくないという場合には、最初から任意整理しか行えない可能性があります。弁護士から保証人に対して話して一緒に自己破産を行ってもらうことも可能ですから、最初から弁護士に虚偽申告をしないことが何より重要です。
無意識な虚偽申告を発見するのは弁護士の業務内容に含まれる
例えばヤミ金からの借入があるのに、一般の消費者金融からの借入の申告をしない場合など、消費者金融からの借入の有無を確認することになりますし、また預金通帳等を調査することで、申告のない債務者への返済の事実が後に判明することになります。
もっと初歩的な時点で無意識な虚偽申告をしてしまう内容は、クレジットカードによるショッピング利用を行っている場合です。クレジットカード利用分は借金には含まれないと本気で考えている人がいるので、弁護士が最初からチェックシートを作成して個別具体的な債務状況の確認を行わなければなりません。誰もが弁護士と同程度の法律知識を持っているわけではなく、一般常識の度合いも人それぞれです。そもそも法律知識や会計知識が十分にあれば、最初から債務整理に至る状況まで悪化させることは無かったでしょう。
弁護士を選ぶ際には何でも話せるウマの良さが決め手
依頼者が弁護士に対して虚偽申告をせずに済むためには、弁護士選びを行う際に話しやすい弁護士を選択することが決め手です。債務整理を行うことは、結果的に依頼者の生活を楽にする意味合いが含まれているので、現状を全て正直に伝えた上で漏れなく債権者一覧表を仕上げる必要があります。任意整理を行うだけならば、依頼された債権者と交渉するだけで良いので、必ずしも弁護士に拘る必要はなく交渉力が強く話しやすい司法書士に依頼する方法があります。
しかし、個人再生や自己破産といった法的整理に踏み切る際には、借金の元金そのものを実質的に減額処理することになるので、弁護士が果たさなければならない調査義務も重くなるわけです。弁護士の中には、残念ながら債務整理の依頼人を見下してしまう人がいるので、しっかり向き合って分かりやすい言葉で話して対応してくれる弁護士選びが大切です。依頼人と弁護士の間で守秘義務についての認識が一致し、何でも弁護士に対してだけは話せるようになれば、債務整理が成功しやすいでしょう。