過払い金返還請求【特集】
過払い金の解説まとめ
消費者金融業者は30年前から現在に至るまで、利息制限法を超える違法なグレーゾーン金利で貸付けをしてきました。ですから利息制限法の法定金利で引き直し計算をすれば、借金は減ります。引き直し計算とは、借りたり返したり取引の履歴に対して、利息制限法の法定金利を適用してやり直す計算のことです。
例えば50万円を出資法の刑罰金利に近い年利28%で借りた場合と、利息制限法の定める18%で借りた場合を比べれば、10%の金利差が生じることになります。したがって一年間に借入金額10%、金額にすると約5万円もの支払う必要のない金利を余分に支払っているのです。
長い期間、消費者金融との間で借入れと返済を続けると、借金はいずれゼロになり、さらにはゼロ円を通過して「借金がマイナス」になってしまいます。すなわちお金を戻して貰えるようになります。つまり「借金の払いすぎ」というわけです。この払いすぎたお金のことを「過払い金」と呼びます。
消費者金融の平均的な利用者であれば、4年で借金は半額に、7年くらいで借金はゼロに、それ以降だとお金が戻ってきます。ただし、ほとんどの人は「法律上借金がゼロになった」ことなど知らずに、消費者金融業者の言うがままに正直に返済を続けています。
過払い金返還例
約23年前に消費者金融から借金をしました。その後3年から5年ごとに新しい消費者金融業者から借入れをし、総額は段々と膨らんでいきました。弁護士に依頼したときは、合計9社から約470万円の借金がありました。各社とも10年以上、長いところで20年以上の長期間にわたって取引をしていました。
引直計算をした結果、取引期間が短い借入先の借金は残りましたが、借金の総額は実に80万円にまで減りました。それだけでなく、6社からは1000万円以上の過払い金(利息を含む)の返還を受けることができました。470万円以上の借金で長年苦しんでいたのに、結果的には過払い金で借金を全額返済でき、その上に大金が手元に残ったのです。
このように取引期間が長ければ長いほど、業者が主張する負債額と本来の負債額(過払い額)との間に大きな開きが出てきます。一刻も早く、利息制限法の法定金利に従って引直計算するとともに、過払い金が発生する場合には直ちに全額の返還を求める手続きをとられることをおすすめします。
過払金回収の方法
過払金は不当利得ですから、債務者は返還を請求することができます。過払金を回収することが出来れば、それを弁済原資として債務整理を図るための資金にすることができます。したがって、過払金は可能な限り回収することが望ましいのです。過払金の回収は、通常の民事事件と同様に、訴訟外で支払いを求めて、これが得られなければ提訴することになります。
■交渉による回収
過払金が生じている場合、一般的にまず訴訟外で返還請求をします。引き直し計算書を添付すると素早く請求ができますが、取引経過をなかなか開示しない貸金業者に対しては、慰謝料や弁護士費用に加えて請求する余地もありますが、貸金業者が交渉段階で慰謝料等の支払いに応じることはほぼ期待できません。過払金の返済期限は現金の振り込みに必要な期間として1週間あれば十分でしょう。
貸金業者がっみなし弁済の主張を行わずに過払金返還訴訟に応じる場合は、早期解決の利益と債務者の意向を考慮しながら和解金額を定めることになります。減額して和解する場合は、過払金の何割かを減額するかではなく、いくら減額するか及び債務者の手元にいくら残せるのか重点を置いて考えることが適当と思われます。
債務者にとっては、数万円でも手元に残れば非常に大きな経済的援助となるからです。例えば、50万円の過払金を半額にまで減額するようなことや、250万の過払いが生じているような場合に、2割減額する事は控えるべきです。他方で、2万円程度の過払い金を5割減額して1万円で和解することは不適当とはいえないケースとなります。
■訴訟による回収
過払金が低額な為、貸金業者が強硬な態度をとる場合や、みなし弁済の主張を譲らない一部業者の場合、相当な減額をしないと和解に応じない貸金業者の場合、過払金の請求をしても無視され続けた場合等、交渉でまとまらない場合には訴訟を提起することになります。
過払金の消滅時効
過払金返還請求権は不当利得返還請求権であり、その消滅時効は10年になります。消滅時効の起算点は、過払金発生時ということになります。そこで、引き直し計算の過程において10年以上前に過払金が発生する場合、貸金業者から過払金の一部が時効消滅していると反論されることがあります。
■消滅時効により過払金を消滅させないための反論
(最初の借り入れから現在まで取引が継続している場合)
過払金発生時期が提訴時から10年以内の場合、消滅時効期間を経過していないから消滅時効にかからないと主張できます。過払金発生時期が提訴時から10年より古い場合、貸金業者が10年前より古い時期に発生した過払金について消滅時効を援用した場合、過払金の一部が消滅時効するのかが問題となります。
この場合、過払金の計算に関して一連計算説の考え方を主張し、過払金の消滅時効の起算点をずらして、消滅時効が完成していないと反論できます。一連計算の主張を認めた裁判例としては「債務者が、弁済によって既に消滅した債務について後から消滅時効を主張することができないのと同様に、利息制限法によれば過払いが発生したとしても、その後に新たな貸し付けがなされ、これが元本に組み込まれたことによって過払いが消滅した場合には、それ以前に発生していた過払い分について、後から消滅時効を主張することはできない」としました。
(一旦取引が終了し、改めて取引が再開している場合)
一旦取引が終了するとは、貸金業者との約定通りの利息及び元本の返済を終えて完済したことを意味します。貸金業者利率に従った完済でありますから、遅くとも完済時には過払金が生じています。
最初の取引を第一取引、その後新たにした借入により現在まで続く取引を第二取引として説明します。第一取引終了による過払金発生時期が提訴時から10年以内の場合、第一取引と第二取引が一体といえる関係にある場合、一連計算に基づいた反論が可能です。第一取引終了による過払金発生時期が提訴時から10年より古い場合、第一取引と第二取引が一体といえる関係にある場合、一連計算に基づいた反論が可能です。
両取引が一体の関係にあるとはいえない場合、相殺の主張は認められない。消滅時効の援用による過払金の消滅は過払金発生時に遡るから、第二取引の開始時には過払金が消滅していることになり、債権者が相対立しなくなるからです。そこで、この場合は、消滅時効の援用が新義則違反である主張を行うことになります。そもそも、貸金業者を利用する者の多くは自身の生活費等にあてるために借り入れるのであり、借りたお金で利殖を行う者が多数いるとは思えません。
個人事業者が商工ローンや消費者金融から借り入れることもありますが、その実体は家族で営む事業のための借入であり、個人事業主の家族の生活基盤を維持するための借り入れであるのです。つまり、一般的に、借りる側は借り入れを行っても大きな利殖をみこめるものではありません。しかも、過払いについての法的知識がないことがほとんどですし、過払金返還請求をすることに法律的な問題がないといっても、取引経過を確認した上で、利息制限法に引き直し計算をしてみないと過払金の請求はできません。
他方、貸金業者は、みなし弁済の主張がほとんど認められないことを承知で利息制限法を超えたグレーゾーン金利で貸し付けを行っています。銀行が貸付先の事業計画を詳しく聞き取り、その事業により得られる利益に見合った利率を設定して融資する場合とは色合いが異なっています。また、貸金業者は消滅時効の主張を封じられても一定の利息が得られます。このような背景からすれば、貸金業者が過払いになった後も約定通りの返済を黙認したために生じた過払金について消滅時効を援用することは信義則に違反すると言えます。
(完済している場合)
完済による過払金発生時期が提訴時から10年以内の場合、消滅時効期間を経過していないから消滅時効にかかりません。完済による過払金発生時期が提訴時から10年より古い場合、消滅時効の援用が信義則に違反することになります。
過払金があるのに和解が成立する背景
いわゆる非弁提携弁護士(整理屋とか紹介屋といわれる弁護士名義を貸して債務者の債務整理業務を整理屋等の事務員に行うなど弁護士法違反を行う弁護士のこと)が代理人になって和解をしたり、法律を知らない債務者本人が貸金業者と和解したりする場合は、利息制限法で引き直し計算を行わないことがあります。その為、引き直し計算を行えば過払金が生じるのに、過払金がないという前提で分割返済の合意がなされます。調停の場合も、債務整理に詳しくない調停委員が間に入る場合には、利息制限法で引き直し計算がなされないこともあります。このような場合においても、反論を行い過払金返還請求をすることができます。
■前の和解時に過払金が生じている場合
過払金があるのにこれを請求せずに分割返済の和解をするということは、みなし弁済の主張を認めるにとどまらず、過払金を放棄することを意味します。過払金発生した原因は、利息制限法を超えた利息の返済を継続したためです。したがって、みなし弁済の主張を受け入れて過払金を放棄することは、利息制限法違反の返済を認めることとなります。例え弁護士が代理人となって和解したとしても無効であり、前の和解をした時点で過払金があるのに分割返済を和解した場合は、前の和解に存在した過払金及び和解後に支払ったお金の返還請求が可能となります。
■■前の和解時に過払金が生じていない場合
しかし、強行法規に違反する事を理由に無効となった場合でも、利息制限法に違反する限度で和解が無効となるに過ぎませんから、返済回数(返済期間)及び各回の返済額、支払停止後和解までに生じた遅延損害金の処理、和解に違反した場合の損害金の利率、振込口座なども含めて全てが一律に無効となるとは言えません。したがって、前の和解時に過払金が生じていない場合は、前の和解契約のどの点まで無効とするか、また、無効とした場合に、和解後の返済をどのように扱うべきかが問題となります。貸金業者からは、利息制限法に違反した約束として無効になるとしても、その後になされた返済は、まず、利息や遅延損害金に充当され、残りを元金に充当する形で引き直し計算を行った残額について分割払いするように主張すると思われます。
しかし債務整理を行う目的は債務者の経済的更正を図ることであり、債務者は最初の債務整理の段階で経済的更正を図る必要があったのであり、その時点で利息制限法に引き直した残元金についてのみ分割払いの合意をすべきでした。したがって、債務者の代理人としては、最初の和解後に支払ったお金は、最初の和解時において利息制限法で引き直し計算をして算出される残元金に充当されるとの立場で交渉すべきです。